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***短歌総合誌掲載作品***

アレキサンダーの裔
(角川書店「短歌」2002年6月号掲載14首)

岩山を縫ひて徒歩ゆくアフガンは哀しきまでに絹の道なり
            徒歩=かち   絹の道=シルクロード

故郷はワマ渓谷のインダル村なつめの木々の花盛りなれ
           故郷=ふるさと   なつめ=アルカナイ

われの知るインダル村にも春は来む三年ぶりに帰村せしといふ

ヌーリスタンそは光の国「我らこそアレキサンダーの裔」と微笑み言へり
                                   裔=すゑ

イスラムの来るずーつとずーつと昔アレキサンダー東征に従軍せしといふ

わが友のシャワリ少年いま頃は寺子屋の土間に学びてをらむ
                        寺子屋=マドラサ

鶴群は北へ針路をめざしたれ少年の指に止まる白蝶
                      白蝶=はくてふ

月光は清音 輪唱とぎるれば沈黙の谷に罌粟がほころぶ
                清音=きよね   罌粟=けし

地の上のむごたらしき死も知るなくて清らなる水の流るる地下水脈
                          地下水脈=カレーズ

人去りて手入れされざるカレーズに溜りし砂も浚へて直さむ

髯剃りて歯をみせて笑ふそんなことも何年ぶりか 春の雨ふる
                              髯=ひげ

祈りなら天高く翔べ初夏はさそりが尻尾を擬す午睡あり

ブルカ脱げば頬に流るる春風よ葡萄の新芽も揺らしゆくべし

貧しくとも桃源郷ここ生きめやも口笛ひとつ吹きてかゆかむ



山城郷土資料館
(角川書店「短歌」2001年5月号掲載14首)
この作品は「恭仁京と大伴家持」のページに掲載済のため省略



皆既日蝕----ブルガリア1999年8月11日-----
(角川書店「短歌」1999年11月号掲載8首)

今世紀最後の皆既日蝕の水曜日 薔薇の谷昏みゆく
                    水曜日=スリャーダ

コロナ光る真昼の闇よ薔薇の谷に祈りを捧ぐ来む千年紀のため
                光る=てる   千年紀=ミレニアム

戻りたる太陽の彩まぶしかり「トラキア人の墓」も明るむ
                         彩=いろ

   ----ここに産するバラ油は世界シェア80パーセントを占め女たちを粧ふ----

薔薇を摘むをとめは小さき手鏡に陽を照り反す何の合図ぞ

シプカ村に鄙びし聖歌ひびくときバルカン山脈晴れて果てなし
                   ---シプカ=薔薇、の意---

聖ペトカ聖ネデリアは呪文めきわれの言葉を風が攫へり
                        聖=スヴェダ

旅に来し動機は読みたる『ソフィアの秋』イコンの聖母に額づきにけり

民衆に死を強ひしコソボに隣りたるソフィアにわれは夕餐を食ぶ
                             食ぶ=たぶ


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